独眼竜政宗

■放送期間:1987 (昭和62)年1〜12月
■原作:山岡荘八
■脚本:ジェームス三木
■出演者:渡辺謙 北大路欣也 岩下志麻 勝新太郎
■見所:大河ドラマ史上最高の平均視聴率を誇る作品。全体的に目力の多い役者が揃っていた。

平均視聴率39.7%は、大河ドラマの歴代トップを誇っており、最高視聴率47.8%は、『赤穂浪士』(53%)、『武田信玄』(49.2%)に次ぐ第3位の記録である(2010年8月現在)。
不動明王について教えられた梵天丸(政宗の幼名)がその養育係である喜多に語った「梵天丸もかくありたい」という台詞は流行語となった。
ただし本編でこのセリフを言うのはこのシーンと、第11回「八百人斬り」で政宗が刀に映った自分の顔を見て、少年時代を回想したのち、刀を振るいながらこのセリフを繰り返す場面のみである。
先述の梵天丸のシーンは、この第11回や26回「絶体絶命」など、政宗が幼少期を回想する場面で使用された。

2003年(平成15年)、NHKがテレビ放送開始50年を記念して行なった「もう一度見たいあの番組」という一般視聴者によるテレビ番組のリクエストでは、総合部門の第9位、大河ドラマ部門の第1位に輝いた。
また、2005年(平成17年)に行われた好きな大河ドラマは?というアンケートで第1位を獲得し、放送から21年経った今でも人気は根強い。
なお2004年(平成16年)1月3日・4日に総合テレビで、同年7月26日〜30日に衛星第2テレビで総集編が本放送当時の完全ノーカット版で再放送された。

オープニング映像自体も大河ドラマの常識を変えた作品であった。
それまでの大河ドラマのオープニングは、風景などの単純な映像が中心で、悪く言えば地味なものが多かった。

本作のオープニングはアバンタイトルの映像に被せてテーマ音楽が流れ、それと共に題字が現れる。
映像には終始、青色を基調としたトンネル風の背景と、「黒漆五枚胴具足伊達政宗所用」の兜を着用し、馬に騎乗した姿の政宗に扮した渡辺謙が登場。
レーザー光線が効果的かつ印象的に使用され、その他にも逆光撮影によるシルエットや合成といった特殊効果を駆使した映像が特徴で、このような演出は大河ドラマのみならず、時代劇のオープニング映像ではあまり見られなかったものであり、非常に斬新な映像となった。
映像に登場する変わり兜はすべてレプリカではない本物が使われ、ラストでスポットライトを浴びて政宗が佇む姿は、仙台城址の騎馬像とほぼ同じ構図になっている。

オンド・マルトノを効果的に用いた独特のテンポと、重厚で壮大な曲調が特徴の池辺晋一郎作曲のテーマ音楽も映像とよく合っており、映像の斬新さと共に視聴者へ強烈なインパクトを与えたことで、大河ドラマのオープニングのなかでは現在でも人気が高い。
また、他のテレビ局も含めてテーマ音楽を「伊達政宗」や「仙台」に関する映像を流すときにBGMとする例が現在でも多々見られる。

なお、宣伝用のポスターにも特殊効果を用いたり、あるいはタキシード姿の渡辺謙に兜を持たせ眼帯を着けさせるなど、時代劇の枠を超える様々な工夫が施された。

このドラマの特徴の一つは、主人公が必ずしも「完璧なヒーロー」ではないことである。
特に幼少時の失明による強いコンプレックス、母親に対する屈折した愛情(強烈なマザコン)などを背景として、幼年期には引き篭もりがちで、突然館内の鶏を棒で追い散らかすという挙に出たこともあった。
少年期には母親や妻との距離感が保てず、相手に対して声を荒らげる場面も少なくなかった。
そして青年期になり、家督を譲与されてからは、いきなり周辺諸大名へ高飛車に振る舞い(父輝宗から甘く見られないようにという助言はあったものの、政宗のあまりの高飛車ぶりに、後に輝宗はほどほどにするよう忠告している)、思い通りにいかないと妻や周囲に当たり散らし、父や家臣の助言にも耳を傾けず、秀吉に最後まで抵抗しようと試みたりと、とにかく危なっかしい青二才の印象を与えている。

秀吉に服従した後も一揆を煽動したり、秀次との懇意が仇となり配流の憂き目に遭いそうになったりするなど、視聴者をハラハラさせる場面が続いていた。
しかし、だからこそ物語後半の何かを悟ったような落ち着きと天下取りをきっぱり諦めた後、徳川将軍家のご意見番としての地位を確立してからの堂々とした立ち居振る舞いは、同じ俳優が演じているとは思えないほどのギャップを印象付け、人の一生の変化に強烈なインパクトを与えている。
同じ危なっかしさでも、第12回「輝宗無残」などで見せる、敵対する武将に対する自信満々で一切寛容な態度を取らない政宗と第33回「濡れ衣」などで見せる、秀次との昵懇に他意はないことを必死で説明するも、配流の沙汰が下った後はそれも諦め、息子に家督を譲る苦渋の決断をする政宗とでは、印象が全く違い、政宗が困難を切り抜けていくにつれて他の諸大名と対等に渡り合える力が備わっていることを画面から感じ取ることができる。
ましてや、松平忠輝と娘五郎八姫の婚儀の時期以降の歳を重ねた政宗は、まるで別人のような落ち着きぶりである。

また、「渡辺謙=知名度の高くない若手」、「勝新太郎=衆目の知るところの大御所」という図式が、そのまま「政宗=奥羽の若き大名」、「秀吉=老成した天下人」にも当てはまるなど、役者の立場・イメージと演じる役の立場がぴったりという印象が強いのも特徴である。

配役決定後、渡辺は勝に事前に挨拶しておこうとしたが、勝は「小田原で政宗が秀吉と初めて出会うのなら、渡辺と勝もそのシーンの撮影まで会うべきでない」と主張。
撮影は渡辺と勝が会うことがないよう調整して行われ、小田原での対面シーン本番で初めて二人は実際に顔を合わせた。
奥羽では暴れ放題であった政宗が秀吉を前に平伏する姿は、奔放に振る舞っていた若い俳優が、ベテランを前にして自分の小ささを思い知らされているようであり、そのリアルな緊張感が画面からも伝わってくる名シーンとなった。
このシーンの収録後、渡辺は勝から「いい眼をしていたぞ…」との声をかけてもらったという。
まさに「渡辺=政宗」が「勝=秀吉」に認められたという、シーンそのままの構図が実際の収録現場にも当てはまったのである。
そしてその「渡辺=政宗」は次第に勝や家康役の津川雅彦とも対等に渡り合うようになり、政宗と共に渡辺も俳優として成長している様子がリアルに感じられた。

その他にも、「お東=烈女=岩下志麻」、「輝宗=優しさと男気=北大路欣也」、「小十郎=忠義者=西郷輝彦」など、役者のイメージが最大限に発揮された演技に多くの視聴者が魅了された。
また、これまでは「『赤いシリーズ』における山口百恵の相手役」としての性格が強かった三浦友和が、無骨な頑固者である伊達成実を見事に演じ、中堅俳優として脱皮するきっかけとなった番組ともいえる。

また、終生のライバルのひとり最上義光役には当初、松田優作がキャスティングされていたが実現しなかった(奇しくも後年、2009年の大河ドラマ『天地人』では松田優作の長男である龍平が政宗役を演じ、渡辺の娘である杏が愛姫役だった)。

主演の渡辺謙は1984年(昭和59年)の『山河燃ゆ』以来、2度目の大河ドラマ出演であり、本作の前年(1986年)に同じNHKで放映されていた連続テレビ小説『はね駒』出演中に「眼がいい」と言われ、抜擢されたという。
彼は当時必ずしも知名度のある俳優ではなかったが、本作で一躍一流スターの仲間入りを果たした。
ただ、その好演ぶりではまり役となったために、「渡辺謙=伊達政宗」の固定イメージが定着してしまい、彼はその後役者としては苦労したようである。
十数年後、渡辺は映画『ラストサムライ』でアカデミー賞助演男優賞候補に挙げられるが、その時の記者会見でも「これでようやく伊達政宗から卒業できるかな」と発言している。

渡辺は本編すべてにわたって右目を閉じた状態で出演。
ただし、第11回「八百人斬り」での夢の中のシーンにて、かつ鏡に映った姿でのみ両目を開いた状態で登場している。
最終話の脚本段階では、政宗臨終の幻想シーンで両目が開かれるという演出が盛り込まれていたが、本編では用いられなかった。

本作の大ヒットの結果、仙台市を初めとした縁の地には、東北新幹線(1982年開業)により観光客が殺到し、渡辺謙や桜田淳子が参加した仙台・青葉まつりも過去最高の観光客数となって「大河バブル」のさきがけとなった。
この作品以降、各地の自治体は地元でインフラを整備したり、オープンセットを作ったりしてでも、大河ドラマの舞台地の誘致をするようになる。

しかし、本作はバブル景気(1986年12月〜1991年2月)初期に放送され、好景気による国民の高揚感と、受け入れ側の仙台市の政令指定都市化(1989年4月1日)前の関連インフラ整備(仙台市営地下鉄南北線開通など)や各種イベントの開始(「青葉まつり」再開、「SENDAI光のページェント」開始、「'87未来の東北博覧会」開催など)等々が重なった結果であり、降って湧いたような「バブル」であった。

一方、政宗にとって最大の敵役となる最上義光があくどく描かれてしまったことや、意図の有無にかかわらず各種イベントが用意されていた仙台市や宮城県側に観光客が集中してしまったことなどに、山形県の関係者らからは不満が上がった。
ただし、当時は山形新幹線も山形自動車道も開通しておらず、特に東北地方以外からの観光客には山形県へのアクセスが悪かった背景もある。

また、伊達政宗の江戸時代での領国である宮城県は観光客で賑わったものの、戦国時代の伊達政宗の版図であり、作中の前半期の舞台である山形県や福島県は大河バブルとはほぼ無縁であった。
例えば米沢市は江戸時代の米沢藩ゆかりの上杉景勝や上杉鷹山に代表される「上杉の町」をアピールしており、伊達政宗をはじめ伊達家については全くアピールしなかった(もっとも本作の放送期間中・直後は、戦国時代の伊達政宗の本拠であった事をアピールしている)。
(Wikipediaより)

 
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